介護現場の夢役者
2026/07/17
今夜は、介護現場での「ドラマ療法」について、YouTubeでお伝えします。
現場の介護スタッフが悩むのが、お年を召した方の「お風呂嫌い」です。「お風呂に入りましょう」と正論を言うほど拒否されてしまう。でも、ドラマ療法の介護スタッフたちは違います。力ずくではなく、その人が歩んできた人生のドラマに、自分たちが配役として飛び込んで演じるのです。

まずは、クリスチャンのマザー手塚さん。認知症になってからはお風呂を頑なに拒まれるようになりました。そこでスタッフたちはドラマの配役になりきり、彼女の信者を演じました。そして手塚さんを、お庭、玄関、ロビーのマリア様へと順番に導き、お祈りを捧げてもらうことにしたのです。
そして最後に、こう言いました。
「マザー様、最後は『お風呂場のマリア様』にもお祈りをお願いします。ただ、神聖な場所ですので、服を脱いで清らかな姿になっていただかないと、ここでは、お祈りができないんです」するとマザーは喜んで服を脱ぎ、熱心にお祈りを捧げました。
そこでスタッフは、「シスター、ただいま天の声を聞きました。マリア様が『マザーの髪をお洗いなさい』とおっしゃっています」
すると手塚さん「ああ、ありがたいですね」と、神様からの“お告げ”で、嬉しそうに髪を洗わせてくれるのです。今日もシスターの温かい祈りは、お風呂場に優しく響いています。
また、元私立高校の校長先生だった猪瀬さん。ある女性スタッフが真剣な顔で相談しました。「校長先生、お願いがあります。うちの息子が出来が悪くて、行く学校がありません。先生のお力添えで、なんとか入学させてもらえないでしょうか?」
認知症があっても、さすがは元校長先生。その瞬間、顔つきがキリッと変わりました。
「それはダメです。どのような事情があろうとも不正はできません。校長自らそんなことをしたらどうなるか、考えなさい。努力するのみです!」
「さすが校長先生、立派な理念です」とスタッフは答えました。
猪瀬さんが「教育者」に戻った瞬間を見計らって、スタッフはこう続けました。
「ところで校長先生、今日は入浴の日ですが……身だしなみを整えない校長先生を、生徒たちはどう思うでしょうか? 朝礼台の上に、不潔な姿で立つわけにはいきませんよね」
「そら……そうですね」
校長先生としての気高いプライドが、彼をお風呂へと向かわせたのです。
元歯医者さんの井上さんも大のお風呂嫌いでした。そこでスタッフはある日、慌てた様子で駆け寄りました。
「先生! お風呂場で急患です! かなり痛がっています!」
そう言われると、井上さんは「では私が」とすぐにお風呂場へ来てくれました。
脱衣場で「僕も脱ぐの?」と驚く井上さんに、スタッフは真面目な顔で答えます。
「はい。患者さんも裸ですから、先生も脱いでいただかないと失礼にあたります!」
そう言われると、井上さんは納得して素直に服を脱ぎ始めました。
お風呂場に入ると、そこは高齢者施設。入居者は事情を知らなくても、
「先生、入れ歯がしっくりこなくて……」
「先生、奥歯の被せがね……」と、おじいちゃんたちは、次々に並び始めました。
井上さんは昔の栄光を思い出して「どれどれ」と嬉しそうに診察を始めます。
お風呂場の特設の歯医者さんは、今日も大繁盛です。
ここの介護士は、ただ、お風呂で体を洗っているのではありません。
彼らの誇り高い夢の世界に、一緒に役者として温まって浸かっているのですよ。

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心理カウンセラー衛藤信之
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